医道の日本 平成28年12月号掲載事例

小児喘息を含めた喘息への鍼灸治療

Ⅰ.はじめに

喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎といったアレルギー疾患は、中医弁証論治による個人に対応した鍼灸治療により、症状が改善することを臨床上実感している。

鈴木らは1)、副腎皮質ステロイド薬を含む薬物療法においてもコントロール不良であった気管支喘息患者6例に対して、鍼灸治療を行った。その結果、鍼灸治療期間に応じて、全症例で喘息発作の軽減または消失効果を得ている。さらに、鍼灸治療期間終了時では、喘息発作の改善に伴い、呼吸機能の改善と好酸球の低下が認められ、6例中4例でステロイド薬の減量が可能となったことで、患者の喘息発作、自覚症状、呼吸機能の改善に有効であったと報告している。

今回は、喘息に対する鍼灸治療として、読者の先生方が、鍼灸の適不適の鑑別・診断・配穴(本治・標治)治療・患者様の説明等について再現・追試できるように構成した。明日からの臨床の参考にいただけたら幸いである。

Ⅱ.西洋医学における喘息 3)4)5)

1. 気管支喘息の定義
  1. Tリンパ球、マスト細胞、好酸球などの炎症細胞が関与する慢性炎症性疾患である。

    ★この「炎症性」とは、発作時のみでなく、非発作時にもある程度の炎症が続いているということである。そこで、治療には抗炎症薬を持続的に使用する。

  2. 自然にあるいは治療により、可逆性の気道の狭窄がある。

    ★「可逆性」とは、1秒量が気管支拡張薬などにより、発作時に比べ20%以上改善することである。

  3. 気道の過敏性が亢進する。

    ★種々の刺激に対して、敏感に気道反応が亢進することである。

  4. 持続する気道炎症は、気道傷害とそれに引き続く気道構造の変化(リモデリング)を惹起する。

    ★気道組織の質的変化・改築(リモデリング)を伴うと、慢性重症例が多くなる。小児より成人喘息に多い。免疫反応として、小児はアレルゲンを主とするIgE抗体の反応による。成人は、リンパ球依存型によるアレルギー反応の割合が高くなる。

2. 気管支喘息の治療
  1. β2刺激薬(サルブタモールなど)⇒気管支平滑筋を弛緩させる
  2. キサンチン誘導体(アミノフィリンなど)⇒気管支平滑筋を弛緩させる
  3. 去痰薬(塩酸プロムヘキシンなど)⇒気管支の痰を取る
  4. 抗アレルギー薬(クロモグリク酸ナトリウム)⇒マスト細胞からのヒスタミン・セロトニンなどのchemical mediatorsの放出を抑える

    ★抗ヒスタミン薬は喀痰が止まるための禁忌である。

  5. 副腎皮質ステロイド⇒重症度が中等度・重度の場合に用いる
3.注意を要するもの…気道に器質的狭窄が生じた疾患
〔症状〕
  1. 体動時の呼吸困難を訴え、高血圧、冠動脈疾患などの心疾患がある。(心臓喘息)
  2. 息切れや痰喀出の訴えを主訴とする。(COPD)
  3. 主に吸気時に喘鳴が聴かれ、嗄声を伴う。(咽頭の病変)
  4. 発熱や膿性痰あるいは呼吸困難が増悪している。(感染症など)
  5. 呼吸困難が強くて横に寝られず(起座呼吸)、会話や飲食が困難な程のADLの低下が発作時にみられる。(症状が重い喘息)

Ⅲ.東洋医学的な考え方

喘息は、東洋医学では「哮喘」と称されている。「哮」は発作性の喘鳴を伴う呼吸困難、「喘」は呼吸促伯するが、喘鳴を伴わないものを意味する。哮と喘は同時に見られることが多い。

哮喘の原因は、身体のどこかに痰飲が潜伏している。この状態を「伏飲」と称す。伏飲を有する人に、気機の昇降・出入失調が起こると、症状が出現する。3)つまり、伏飲が支飲となって出現した時、気道が狭窄して気機の失調となる。

哮喘は虚証と実証に分類される。虚証は、気虚がベースにある。気の推動力低下により、気機失調となりやすいためである。実証は外邪(風邪)によるものである。哮喘の症状は、虚証であっても実の症状である。

哮喘の弁証・原因・症状
弁償 原因 症状
実証 風寒 伏飲+風寒邪 急に発病、悪寒>発熱、鼻水(水様)、痰は透明、舌苔薄白、脈浮緊
痰熱 伏飲+風熱邪 呼吸促迫、呼吸粗い、痰は黄色粘稠、悪寒<発熱、咽頭痛、口渇、顔面紅潮、舌苔黄膩、脈浮滑数
虚証 脾気虚 脾気虚⇒痰湿留る
伏飲+痰湿
★身体の余分な水が最も多い
疲れると喘息、痰が多い、経過が長い、納少、納保、便溏or便秘、夕方むくみやすい、舌淡、脈虚弱滑
肺気虚 伏飲+肺気虚
★肺の宣発・粛降機能低下による
疲れると喘息、咳は無力、痰は透明、経過が長い、短息、瀨言、自汗、風邪引きやすい、舌淡、脈虚弱
腎気虚 伏飲+腎気虚
★腎の納気低下により、肺の宣発・粛降も機能低下する
呼多吸少、痰は透明で少ない、経過長い、寒がり、腰膝酸痛、舌淡、脈沈虚弱
虚証・実証鑑別のポイント
実証は外邪によるもので、悪寒発熱、咽頭痛や鼻水、脈浮といった風邪の症状を伴う。
虚証の全てが、疲れると症状が悪化して経過が長い。脾気虚、肺気虚、腎気虚のいずれの症状を有するかで弁証する。

Ⅳ.喘息の治療

1.喘息の治法と配穴

当院では、全ての治療に中医弁証論治による配穴を用いた治療を実施している。また、症状に合わせて標治のパターンを決めて、同じ症状の人に体質別に共通配穴を用いている。即ち、『中医弁証論治による本治』と『症状別共通の標治』を施している。

中医弁証論治による喘息のタイプを、『風寒、痰熱、脾気虚、肺気虚、腎気虚』の5つに分類した。

(1)本治
弁証 治法 配穴
肺気虚 補益肺気
益気固表
太淵、肺兪(原兪配穴法)、気海、合谷
脾気虚 健脾化痰
益気健脾
太白、脾兪(原兪配穴法)、気海、合谷
腎気虚 補腎納気
養肺定喘
太渓、腎兪(原兪配穴法)、気海、合谷、太淵、肺兪(原兪配穴法)
痰熱 清熱散風
滲出利水
内庭、合谷、曲地、風池、陰凌泉、豊隆
風寒 疏風散寒 風池、風門、身柱、大椎
配穴の説明
虚証
  • 本治は全て補法である。
  • 原兪配穴法は、原穴と背部の兪穴を組み合わせる配穴法であり、その臓腑機能を高める。哮喘は、肺・脾・腎の気虚が原因となっている。各々の臓の気を補い、気の推動力向上に伴い、機能が正常化する。
  • 合谷(全身の気を補う)・気海(元気の要穴)を合わせると、全ての気虚を補うことができる。気が充実すると、気の昇降出入・免疫機能が正常に働くようになる。
  • 腎気虚の中で、腎不納気に哮喘がみられる。肺は呼吸(粛降)を主り、腎の納気を助ける。また、腎は納気を主り、肺の呼吸を助ける。
    腎不納気の者に、太淵・肺兪の原兪配穴法を加えることで、肺の宣発・粛降を強化することが腎気の納気作用を助ける。
実証
  • 本治は全て瀉法である。
  • 痰熱は、陰陵泉(去湿)・豊隆(去痰)と合わせてまずは滲出利水。即ち、身体の組織に溜まった余分な水を取り除いてくれる組み合わせを用いる。同時に、内庭(清熱胃火)から胃熱を取り除く。
    風熱邪の治療には、曲池・合谷・風池(清熱散風)の配穴で身体の邪熱を取り除く。鍼は速刺速抜。
  • 風寒は、風池・風門・身柱・大椎(疏風散寒)の配穴で、外邪を散らす。
    鍼は速刺速抜。灸は、8分灸で温める。
2.標治

当院における喘息に対する標治は以下の通りである。全てのタイプに共通して用いる。哮喘の発作は、体質が虚証であっても実の症状である。足三里・尺沢は瀉法として、各々の経絡の走行に従って刺入する。

配穴

-足三里・尺沢・彧中・華蓋・身柱

意義
  • -足三里
    健脾化湿・健脾益気
    喘息は伏飲の存在下で出現するので、化湿がポイントとなる。
    胃に向かって、経絡に逆らって刺入する。
  • 尺沢
    宣肺平喘(肺気を宣通して、平喘をはかる)
    肺に向かって、経絡に逆らって刺入する。
  • 彧中・華蓋・身柱
    清肺化痰・宣肺理気
    気管支の慢性の炎症を抑制する。
    彧中から華蓋に向けて横刺。また、彧中・華蓋にはツンとする位の8分灸を3壮施す。

(注)小児の喘息では、鍼が鍉鍼となる。

Ⅴ.小児の喘息に対する鍼灸治療による効果

目的

当院では、全日本鍼灸学会・日本東洋医学会にて、小児はりの効果について発表してきた。全日本鍼灸学会では、小児はりの効果を数値化することで、鍼灸師の患者への説明に役立てていただき、一方で小児はりの術者拡大につながればと考えている。

次に、日本東洋医学会では、小児科医の先生方が、小児はりを患者の保護者にすすめてくださるきっかけとなるデータを示すことができればと考えている。

方法
対象
2009年2月~2016年10月
小児はり問診票に協力いただけた328名中、“喘息”の項目に1以上ついている18名とした。男児13名、女児5名である。平均年齢は4.3±1.6歳であった。
問診票
小児はり問診票(小児はり学会認定)を用いた。
調査内容
アレルギーの気になる程度0~4の5段階評価
喘息の症状の程度“喘息”について調査した。
Numerical Rating Scale(NRS)0~10の11段階評価とした。また、小児はり治療に対する満足度を100点法で評価した。
調査時期
初診時(以下初診)、4回目治療後(以下治4)とした。
分析
分析方法は初診・治4を比較した。検定はSPSSを用い、ノンパラメトリック分析として、評価時点の比較検定をWilcoxon符号付順位検定にて行った。なお、有意水準は5%とした。
結果

アレルギーの大項目である保護者の気になる程度と、喘息の小項目である症状の程度では対象人数が少ないためか、中央値で改善がみられたが有意差はなかった。

グラフ1

グラフ2

しかし、治療満足度は、70点以上を満足とし、75%を占めた。

グラフ3

考察・結語

結果より、鍼灸治療によるアレルギーの大項目と、小項目である喘息については、明確な効果は示せなかった。今回は4回の治療で評価したが、喘息を4回の治療で評価するのは難しいとも感じる。我々は臨床上、喘息は徐々に気にならなくなる症状と考えている。アレルゲンやストレスなどにより症状が変化しやすいので、長期間の症状の変化を数値にて評価する必要があると考える。

我々は臨床の中で、小児喘息に鍼灸治療は自信をもって、その効果を伝えられる症状であると考えている。実際、カルテを追跡すると、喘息が対象の小児患者は発作がでなくなり経過も良好だと記録されていた。

小児の症例

1歳、男児

初診時
1ヵ月前に卒乳してから、夜泣き、カンムシが悪化した。
夜中1.5~2時間毎に起きてぐずる。
喘息は、病院で処方されたステロイドを1回/日吸入している。
鍼灸治療15回目
夜泣きはほとんどなくなった。湿疹はでているが、喘息はでなくなった。グラフは、喘息症状の程度の変化を示している。

グラフ4

現在は小学校1年生になり、たまに健康維持のために来院されるが、喘息の症状は完全になくなっている。

Ⅵ.成人喘息症例

症例

男性、32歳、船員 肺気虚証

初診時

職業が船員であるため、オフの1~2ヵ月集中して治療。また3ヵ月後、1ヵ月集中して治療している。職場環境は非常に悪く、喘息に影響しやすい。

喘息は(毎日吸入)、右肺に空気が入っていない感じがする。肩こり、疲れやすい、アトピー性皮膚炎で全身の皮膚が乾燥する。仕事をするのも辛い時がある。

舌淡、脈沈虚弱

治療後
  • 1クール目
    11回治療
    喘息は楽になり、アトピー性皮膚炎も上半身のみとなった。
  • 2クール目
    7回治療
    喘息、アトピー性皮膚炎ともにあまり症状出現しなくなった。
  • 3クール目
    9回治療
    身体が楽になり、仕事に対して積極的に取り組めている。おかげで、契約社員から正社員になることができた。
    喘息・アトピー性皮膚炎は、たまに出すとの影響である程度で、気にならなくなった。
術者コメント

喘息とアトピー性皮膚炎を治療することで、身体が丈夫になり、疲れにくくなった。
呼吸もしやすくなり、仕事に対して前向きになってきた。その変化を見ていた上司から、正社員にどうかと声がかかり、益々やる気がでてきた。人は元気になると、明るく積極的な性格に変身できると実感した症例である。鍼灸治療でそのお手伝いができて幸いである。

患者様の声

3年ほど前から喘息を患っており、空気の悪い職場に勤めていることもあって、一時は仕事中に倒れそうになることもありました。

ホームページでまり鍼灸院さんを見つけ、少しでも喘息が良くなればと思い通院を始めました。その日の体調にあわせて治療を行っていただけるので、喘息以外にも生まれつきで持っているアトピー性皮膚炎やアレルギー、腰痛などの相談にも応じていただいています。

通院する1年程前までは、仕事中にも集中力が続かず、体力的にも周りについていけずに悩んでいた時期がありました。それが今では体調万全で仕事に臨むことができ、人間関係も良くなったので、今では楽しんで仕事ができるまでになりました。この前に派遣先の上司から「君は頑張っているし、よかったらうちの会社に入らないか」と誘いを受けましたが、健康な体をもっているだけでこれ程環境がかわるのか、と驚きました。

アトピー性皮膚炎では、ひどい症状が出なくなり、顔にも赤みが消えました。周りからも、肌がきれいになったねと言われるようになりました。これからも喘息やアトピーの治療を続けていくことに加えて、歳を重ねていくごとに体調も変わっていくと思うので、そのような相談にも乗っていただけたらと思います。

Ⅶ.結語

今回は、臨床で使える喘息の知識と治療といった観点でまとめた。喘息で来院された患者様は、寛解までに時間がかかる場合も多い。随伴症状の変化や顔色、爪の色、皮膚の乾燥等、患者様と情報を共有化して観察することが、治療継続につながると感じている。

また、小児の喘息では、4回の喘息に対する治療満足が75%と、満足感・期待が非常に高い。成人の喘息も、症例から鍼灸治療の効果が期待できると感じている。喘息は、薬でのコントロールが必要不可欠である。また、慢性的に長引くものも多い。よって、医療連携が必要な疾患である。東洋医学と西洋医学を上手くマッチングして、患者様にとってベストチョイスができるように、東西両医学の垣根を越えた治療を意識していきたいと考える。これら満足度や症例が、先生方の臨床において、患者様に対しての治療継続の説得にご活用いただけたら幸いである。

参考・引用文献

  • 1)鈴木雅雄,他. 気管支喘息に対する鍼治療の臨床的効果の検討.全日本鍼灸学会誌,2006;56(4):616-627
  • 2) 豊福伸幸.気管支喘息に対する鍼治療の効果の検討-運動誘発性喘息を対象として-.明治国際医療大学誌,2011;5:13-24
  • 3) 教科書執筆小委員会.東洋医学臨床論<はりきゅう編>.医道の日本社.神奈川 2004.45-47
  • 4)平成22年度リウマチ・アレルギー相談員養成研修会テキスト.厚生労働省.
  • 5)五幸恵.病態生理できった内科学 part1 循環器・呼吸器.医学教育出版社.2003.226-229
  • 6) 邸茂良、孔昭遐、邸仙霊編著.中医鍼灸学の治法と処方.東洋学術出版社学術出版社2001
  • 7) 王富春編著.経穴治病明理.科学技術文献出版社2000.
  • 8) 天津中医薬大学.後藤学園編著.鍼灸学「経穴篇」.東洋学術出版社1997
  • 9) 天津中医薬大学.後藤学園編著.鍼灸学「臨床篇」.東洋学術出版社1993
  • 10) 李世珍.臨床経穴学.東洋学術出版社2001
  • 11) 神戸中医学研究会.基礎中医学.燎原1995
  • 12) 内山恵子.中医診断学ノート.東洋学術出版社1999

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